あるとき誰かが話してくれたこと、美しく語ろうなんて思いもせずに偶然一篇の詩のようになった言葉を私はお守りにしている。
いつでも取り出せる場所に置いておくと、ほんとうに清らかな気持ちになれる。
日が落ちかけた新宿の交差点で、ある人が
「このぐらいになるといつも「薄暮」だなと思う、街は薄暮が一番美しく撮れるんだよ」と言った。
ある人は「幼い頃、朝起きると母が弾くピアノの音で目が覚めて、いつも同じところでつまづいていたのを時々思い出す」とぽつりと話してくれた。
そんなことを思い出しながら目を閉じると、まるで身体から解放されたように何もかも軽くなって眠りに落ちていける気がする。もしもなにかが訪れて変わってしまっても、私はずっとおぼえていたいと思う。