詩「新月」

中秋の名月に満ちた月がのぼる今夜、月にちなんだタイトルを冠した新作の詩を公開いたします。

11月発売予定の詩集「影使い」より。

 

 

新月」                              嶋田紫文

幽かな思念が
暗がりで踊っている
埃と戯れる羽根のように

漂うだけの時の中では
いつまで経っても夜である

さかしまの現世が爪を剥がす
いつまで経っても人にはなれぬ

優しい子になる呪いで
柔らかな沈黙で
名付けられた拘束で
居場所のない低音で
弾かれた身体で

最も深い闇
最も濃い陰翳を
纏ったとき

私は非情になれる

冷たい熱を持て余した
哀しきけだもの

砂の中から叫喚する
火種と目が合う

無明でないと知る

私は纏う
殺されないために