遅咲きの本棚

小さい頃から私の暮らしたどの家にも、本棚は無かった。

ありふれた子供だったなら眠る前、親が寝かしつけるために本を読んでもらえただろうか。

祖父母や親戚から図書券や本の贈り物があるかもしれないし、宿題の音読カードの親のサインを偽造しなくていいし、読書中の子供に対して親が侮辱するようなことをきっと言わないだろう。

ありふれた子供だったなら、いつでも帰れる実家にいつまでも自分の部屋が残っていて、そこには本棚があるのかもしれない。

外出自粛要請が出ていた期間中に流行ったブックカバーチャレンジを見て、同年代の子達が自分の思ってた以上に本を買っていることを知り驚いた。

‪もちろん好きな作家さんの本は出来る限り買いたいけど‬、‪経済的にすごく余裕があるわけではないから読みたい本すべては買えない。

そうなると頼りは図書館だけ。コロナ対策で長い期間の休館がかなりつらかった。

 

ヴァージニアウルフは「女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分ひとりの部屋を持たねばならない」と書いていたけれど

小説を書くだけでなく、読むためにも同じことが言えると思う。

自分だけの部屋も必要だけど、自分だけの本棚も必要だったのかもしれない。少なくとも私には。

 

現に私はつい最近まで自分で気軽には本を買えなかったし、まともに一冊読むこともできなかった。

私が本を読める環境と安全な場所を手に入れたのはここ2、3年で、本を買えるのも読めるのも決して当たり前のことではなかった。

頭も身体も拘束されているような環境に加えて、過去の心的外傷による頭の中の散らかりや雑音とも付き合っていかなければならず、文字なんか頭に入らなかった。

本を読むには精神的、経済的に余裕があって邪魔の入らない安全な場所を確保できなければならなかった。

 

自分で本を読める環境を手に入れてからは、いつだって大好きな魔女にも悪魔にもバンパネラにも会えた。

私が生きたかもしれない別の人生や別の場所にも飛んで行けた。

実在し、同じように引き裂かれながら戦い生きた人たちに思いを馳せることもできた。

初めて手に入れた自分だけの本棚が、ちょっとずつだけど好きな本だけで埋まっていくのが今すごく嬉しい。

 

本棚はポータルだ。

決して誰かに閉め出されることも、閉じ込められることもなく常にどんな世界へも開かれた入り口だ。

 

ありふれた子供が大人になると

「子供の頃使えたはずの魔法を大人になってから失った」とよく言うけれど

私は子供の頃に使えなかった魔法を今、めちゃくちゃ発動しているところだと思う。

そしてその魔法を、ずっとこのまま失わずに年を重ねることができると思う。

 

どれだけ努力してもはみ出してしまう、引き裂かれながら生きるものはうまく俗世には馴染めない。

魔法を持ち続けながら生きるには、決して無理には馴染もうとしてはいけない。

いつでも開く私だけのポータルをくぐって、もう一つの世界で、ひそやかに健やかに息をしていく。

f:id:RIKAGALENTINEROSE:20200727211407j:image

「MY SAFETY PIN CROWN」

f:id:RIKAGALENTINEROSE:20191020192436j:image

 

8月。私はセルフポートレートの作品作りに取り掛かった。


始まりは今年の誕生日。

自分へのプレゼントに購入したティアラと青薔薇の刺繍のネクタイを身につけて、自分を祝うためだけにセルフポートレートを撮ったことがきっかけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「MY SAFETY PIN CROWN」

 

f:id:RIKAGALENTINEROSE:20191020192320j:image

 

ごめんあそばせ、と中指を立てて

私は私の王冠を守る。

 

王冠を自分への敬意の象徴として、毎日を生きる中で目には見えなくても、誰もがいつでも王冠を持っている。ということを表現している。


自分だけの王冠のイメージは

大島弓子の作品「8月に生まれる子供」の「わたしはわたしの王女さまである。そしてその民である。」という言葉と

デヴィッドボウイの楽曲「Heroes」の歌詞から着想を得た。


王冠は安全ピンを大量に用いて、一から手作りした。

 

f:id:RIKAGALENTINEROSE:20191020192227j:image


安全ピンは以前、ツイッターで痴漢対策として話題になり、議論になった。そして最近では、安全ピンはマイノリティ支持と団結の新しいシンボルとなり、再び注目されている。


1970年代以降、パンクの女王として知られるヴィヴィアンウエストウッドが当時経営していたショップ「SEX」で、安全ピンをモチーフとして取り入れた洋服などを展開してからは、安全ピンはパンクの象徴的なモチーフでもある。


本作では安全ピンをモチーフに使用することで、自分や他人への敬意、自分の性やアイデンティティを守ることを表現している。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


女の子だからと人を思いやることばかり教わり、自分を大切にしていいのだと知らずに大人になった私は、嫌なことを嫌だとはっきり言えずに、搾取に慣れてしまったし無駄に傷ついてきた。


私は何かを作ることで、私らしさを奪ってきたものへの貸しの回収をして、痛みの清算をしようと思っている。

 

背中を押してくれた女性たちや、憧れの魔女、パンクなはみ出しものたち、特権を持たない人、傷を抱えたまま断ち切れずにいる人を思いうかべることを。ごめん遊ばせと中指を立てることを決して忘れずに。

 

f:id:RIKAGALENTINEROSE:20191020192559j:image